
6Gに向けた通信インフラの整備が進む中、地上だけでなく、空や海、山間部などの通信カバレッジの拡大がますます重要になっています。その解決策として注目されているのが、衛星通信とHAPS(ハップス)です。本記事では、それぞれの技術の概要と共通点、違いについて解説します。
INDEX
- 1.HAPS(ハップス)とは
- 1.1.HAPS(ハップス)のメリット
- 低遅延・高速大容量通信が可能
- 特別な機器が不要
- 最新技術の導入が容易
- 高解像度の画像を取得できる
- 1.2.HAPS(ハップス)のデメリット
- カバー範囲が限定的
- 2.衛星通信とは
- 2.1.衛星通信の種類
- 静止衛星(GEO)
- 低軌道衛星(LEO)
- 2.2.スマートフォンとの直接通信を提供するLEO事業者
- スターリンク(KDDIと提携)
- AST SpaceMobile(楽天モバイルと提携)
- 2.3.衛星通信のメリット
- カバー領域が広い
- 即時利用可能
- 2.4.衛星通信のデメリット
- 通信の遅延
- 専用機器が必要
- 3.「衛星通信」と「HAPS」の共通点
- 3.1.空中に浮かぶ機体を利用した通信
- 3.2.基地局の設置が難しい地域で通信できる
- 3.3.災害時でも通信を維持できる
- 4.衛星通信・HAPS・モバイル通信の比較
- 5.HAPSの提供事業者
- 5.1.Space Compass(NTT、NTTドコモ、スカパーJSAT、エアバス)
- 5.2.ソフトバンク (HAPSモバイル、AeroVironment)
- 6.HAPSの活用シーン
HAPS(ハップス)とは
HAPS(High Altitude Platform System)は、日本語で「高高度プラットフォームシステム」または「成層圏プラットフォーム」と呼ばれる技術です。
4Gや5Gの地上系ネットワークとは違い地上から地上約20kmの成層圏に無人飛行機や気球を長期間滞空させ、そこから通信サービスを提供します。
地上基地局のデメリットを解消している点で優れており、電波が建物などの障害物に遮られることなく広範囲に届けられます。
HAPSは、6G時代に向けて、地上・海上・空中・宇宙を途切れなくネットワークで接続させるための重要な要素とされています。
HAPS(ハップス)のメリット
低遅延・高速大容量通信が可能
HAPSは地上から約20kmの成層圏に位置するため、低軌道衛星よりも地表に近く、遅延が少ない通信を提供できます。リアルタイム性が求められるアプリケーションに適しています。
特別な機器が不要
HAPSでは一般的なスマートフォンと直接通信できるため、専用アンテナや機器を用意する必要がなく、導入コストを抑えることができます。
一部のLEO事業者もスマートフォンとの直接通信サービスを提供しますが、HAPSではより高速な通信を可能にします。
最新技術の導入が容易
人工衛星の運用期間は十数年に及ぶのに対し、HAPSは数ヶ月~1年程度の運用期間です。技術の更新が容易で、常に最新の技術を取り入れやすいというメリットがあります。
高解像度の画像を取得できる
HAPSは地表に近いため、衛星に比べて高解像度の画像データをリアルタイムで取得できます。災害時の被災状況の観測や海洋状況のモニタリングなど、多様なニーズに応えることができます。
HAPS(ハップス)のデメリット
カバー範囲が限定的
HAPSは高度が低いため、1機でカバーできる範囲は半径50~100km程度と、衛星に比べて狭くなります。広域エリアをカバーするには、複数のHAPSを連携して運用する必要があり、そのための運用コストが課題となります。
衛星通信とは
衛星通信とは、宇宙空間に配置された人工衛星を利用して、データや音声、映像などを送受信する技術です。広範囲にわたる通信が可能であり、インフラが整備されていない地域や、国際間の通信に利用されています。
衛星通信とは、地上と人工衛星間でデータや情報をやりとりする通信方式のことです。
その人工衛星に地上の送信機からデータが送られ、衛星の受信機を介してデータが地上の目的地に届きます。
衛星通信の種類
衛星通信は、使用される衛星の高度によって次の2種類に分けられます。
参考:非地上系ネットワークの現状と将来像 P.6
静止衛星(GEO)
静止衛星は、高度約36,000kmで地球の自転と同じ速度で周回し、常に同じエリアに通信サービスを提供します。少ない数の衛星で広範囲をカバーできるのが利点ですが、地球からの距離が遠いため、通信の遅延が大きくなるのが課題です。
低軌道衛星(LEO)
低軌道衛星(LEO)は地上約200km~2000kmの位置を周回し、地表に近いため遅延が少なく高速通信が可能です。同じ場所を長時間カバーできないため、数百~数千基の衛星を連携させて世界全体をカバーします。
近年はロケット機材の低コスト化や宇宙通信技術の開発が進んだことから、LEOを利用した一般向けの高速通信サービスが実現しています。
スマートフォンとの直接通信を提供するLEO事業者
一部の低軌道衛星通信事業者では、専用機器を必要とせず、スマートフォンと直接通信できるサービスを開始予定です。アンテナを準備する初期コストを抑えることができますが、スマートフォンでは出力できる電波が専用機材に比べて小さいため、アンテナ使用時よりも通信速度が低下する場合があります。

スターリンク(KDDIと提携)
スターリンクでは、2024年中にスマートフォンとの直接通信サービス「Direct to Cell」を開始する予定です。最初はSMS送受信から開始し、音声通話やデータ通信にも対応していく予定です。
参考:KDDIとスペースX、衛星とスマホの直接通信サービスを提供 | KDDI News Room
AST SpaceMobile(楽天モバイルと提携)
AST SpaceMobileは、スマートフォンと衛星が直接通信できるサービスをめざしており、2026年中に日本でのサービス提供を予定しています。音声通話やブロードバンド通信にも対応する計画です。
衛星通信のメリット
カバー領域が広い
衛星通信は世界全体をカバーしており、地上のインフラが整備されていない地域や海上、山岳地帯などでも利用できます。
即時利用可能
既存の衛星ネットワークを利用するため、申し込めばすぐにサービスを開始できます。
衛星通信のデメリット
通信の遅延
衛星は地表から距離が離れているため、信号が衛星を往復するまでに時間がかかります。リアルタイム性が求められる通信には不向きです。
専用機器が必要
大型のアンテナや送信機が必要で、初期コストがかかることがデメリットです。
「衛星通信」と「HAPS」の共通点
衛星通信とHAPS(ハップス)に共通する特徴を見ていきましょう。
空中に浮かぶ機体を利用した通信
衛星通信とHAPSは、いずれも地上から離れた空中に存在する機体を介して通信を提供します。
衛星通信は、地上から100km以上の宇宙空間にある人工衛星を使います。
一方、HAPSは地上から約20kmの成層圏を飛行する無人飛行機(UAV)を用いて通信を行います。
基地局の設置が難しい地域で通信できる

通信の中継機が空中にあるため、山間部や海上のように、地上に基地局が設置するのが難しい場所でも通信が可能です。地上インフラの整備が困難なエリアでも、安定した通信が行えます。
災害時でも通信を維持できる
衛星通信やHAPSは地上のインフラに依存しないため、自然災害によって基地局や光ファイバーケーブルが破損しても、通信を継続することが可能です。災害時の非常通信手段として、大きな強みになります。

衛星通信・HAPS・モバイル通信の比較
衛星通信やHAPSは地上基地局が設置できないエリアや災害時に効果を発揮しますが、日常生活で主に使われているのはモバイル通信です。ここでは、衛星通信とHAPSを理解するために、身近なモバイル通信と 比較してみましょう。
衛星通信とHAPSは、地上基地局が設置できない山間部や海上、離島などで通信サービスを提供できる点が大きな強みです。特に衛星通信は世界全域をカバーし、広範囲での通信が可能です。
一方、通信性能においては、モバイル通信が最も優れています。
HAPSは、モバイル通信と衛星通信の中間に位置し、地上基地局や通信衛星でカバーしきれなかった通信エリアの「穴」を補填します。低遅延で高速な通信が可能です。低遅延が求められるアプリや、高精細画像の取得、センシングへの活用が期待されています。
HAPSの提供事業者
Space Compass(NTT、NTTドコモ、スカパーJSAT、エアバス)
NTTとスカパーJSATは、地球と宇宙をつなぐネットワークを提供するため「Space Compass」を2022年に設立しました。2024年6月には、NTTドコモとAALTO(エアバス子会社)、エアバスと提携し、HAPSの早期商用化をめざしています。
2026年中に離島に向けたHAPSの提供を開始し、2028年には国内エリアを拡大する予定です。
参考:NTTドコモ、Space CompassがAALTO、エアバスと資本業務提携、AALTOに最大1億ドルを出資 | お知らせ | NTTドコモ (docomo.ne.jp)
ソフトバンク (HAPSモバイル、AeroVironment)
ソフトバンクはAeroVironmentと共同でHAPSの機体開発を進めています。
2027年度までに要素技術の開発を完了させる予定で、最初は太陽光発電に適した赤道付近の国々に、HAPSを提供する予定です。
HAPSの活用シーン
日本では自然災害が多く発生し、大規模な災害では携帯電話回線が途絶えることもあります。
基地局が電源を失った場合は電源供給で復旧できますが、基地局の故障や伝送路の断線が起きた際には、携帯電話キャリアによる臨時エリアの提供を待つ必要があります。
これまで臨時エリアを提供する方法として、以下の4つが主に使われていました。
- ・移動基地局車
- ・可搬型基地局
- ・船上基地局
- ・ドローン

これらの手段に加えて、将来的に期待が高まっているのがHAPSです。
HAPSは1機で半径50km~100kmの広範囲に臨時エリアを提供できるため、従来の手段よりも効率的にエリアを展開できます。また、上空からの提供なので、被災地の地形に左右されない点も大きなメリットです。
HAPSの実用化が進むことで、災害時の携帯電話回線の復旧が従来よりも早くなることが期待されています。
まとめ
衛星通信とHAPSは、それぞれ異なる高度で運用されるものの、どちらも地理的制約を克服し、広範囲にわたる通信カバレッジを提供する技術です。HAPSは2026年以降に日本国内で展開される予定であり、実用化が進むことで、より多くの人がいつでもどこでもインターネットに接続できる環境が実現するでしょう。
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